高血圧科
当院では高血圧学会認定専門医による高血圧治療を行っています
高血圧の診療では、血圧上昇の原因を詳細に把握することにより、それぞれの患者さんにあった個別の治療法を選択でき、少ない薬量・副作用での降圧目標達成が可能となります。また、生活習慣とは別の原因があるいわゆる二次性高血圧症の患者さんは意外と多く、全高血圧患者さんの1割が該当します。そのような高血圧の中でも、原発性アルドステロン症・腎血管性高血圧症・甲状腺疾患・褐色細胞腫・薬剤性高血圧症(甘草を含む漢方など)などは、適切な治療を行うことで大幅に薬を減らし生命予後を改善させることができます。
循環器疾患などにも関連
高血圧は、狭心症、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症・大動脈瘤などの血管病や心不全、不整脈などの生命に直結するような循環器疾患だけではなく、生活習慣病、腎疾患、脳疾患、認知症などと幅広く関連してきます。このような病態の合併がないかの確認が大切です。

治療方針の決定まで

問診、塩分チェックシート、血液尿内分泌検査
臓器障害の確認(動脈硬化検査、心エコー図など)、簡易終夜睡眠ポリグラフ検査
・各種原因に合わせた減塩・禁煙などの生活習慣指導、薬物治療、高血圧診療アプリ
・CT検査(副腎、尿路系異常の検索など)、MRI検査(腎動脈狭窄のスクリーニング)
・副腎静脈サンプリング検査、腎動脈形成術など

本態性高血圧症

いわゆる一般的な高血圧症です。多くは、カロリーや食塩の摂り過ぎによる不摂生が原因で、血圧が高い方の9割の患者さんが該当します。
生活習慣改善:減量、運動、禁煙、減塩指導を行います。
薬物療法:交感神経亢進タイプと塩分過多タイプで使用する薬が変わります。
これらをはじめとした医学的根拠に基づく治療を行います。最近は携帯アプリで高血圧の治療を行うことが保険診療で認められました。

治療抵抗性高血圧症

降圧薬を3剤内服しても充分に血圧が下がらない状態です。このような患者さんは、二次性高血圧症の可能性がございます。生命予後に大きく関連することからも、早期の高血圧専門医による介入が必要です。

二次性高血圧症

意外と多い二次性高血圧症
生活習慣とは別の原因がある二次性高血圧症の患者さんは意外と多く、全高血圧患者さんの1割が該当します。病態に合わせて適切な治療を行うことで大幅に薬を減らし生命予後を改善します。若い高血圧患者さんの多くが該当します。血液検査やCT・MRIなどの画像検査により診断を行います。

原発性アルドステロン症

血圧が高い方の5%が該当する最も多い二次性高血圧症です。腎臓の上にある副腎より、体に塩分をため込む作用を持つアルドステロンが過剰に分泌されています。手術適応を副腎静脈サンプリング検査にて判断します。アルドステロンを直接抑制する薬物治療、また病原となっている片側の副腎を摘出する外科治療(場合により部分摘出)により良好な降圧を得ることができます。当院では原発性アルドステロン症の詳細な検査治療が可能です。

薬剤性高血圧症(偽性アルドステロン症など)

意外と多いのが甘草(漢方薬の多くに含有)のアルドステロン類似物質による高血圧症です。甘草を中止します。

腎血管性高血圧症

腎臓への動脈が動脈硬化等にて細くなり、虚血にさらされた腎臓から血圧をあげる作用を持つレニンが過剰に分泌されます。腎動脈の狭窄部位をカテーテルで拡張することにより劇的な降圧を得ることがあります。

内分泌性高血圧症

主に甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病など)や副腎疾患(クッシング症候群・褐色細胞腫など)が高血圧を引き起こすことがあります。血液検査で簡単に判定できます。薬物療法や場合により手術を行い治療します。

睡眠時無呼吸症候群

無呼吸による低酸素刺激が交感神経系を活性化させ血圧を上昇させます。自宅にて簡便に検査を行うことができます。減量や持続陽圧呼吸療法など睡眠時無呼吸症候群の治療を行うことで劇的な降圧を得ることがあります。

簡易ポリグラフ・ポリソムノグラフイー(PSG)検査

【睡眠時無呼吸症候群の重症度】
軽度:5≦AHI<15
中等症:15≦AHI<30
重症:30≦AHI
睡眠時無呼吸検査装置

⾼⾎圧の10のファクト

⽇本⾼⾎圧学会は「⾼⾎圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025)に基づき、国⺠に向けて「⾼⾎圧の10のファクト」を発表しました。そこに書かれているのは「これだけは知っておいてもらいたい」という基本の10項⽬。⾼⾎圧をコントロールし、健やかな未来を⼿に⼊れるための指針となるものです。JSH2025は、多くの最新研究を集約・検討した末に編まれており、エビデンス(科学的根拠)に基づいて標準的な対応を⽰したものです。「⾼⾎圧の10のファクト」も、このエビデンスをベースに、具体的な数値とともに以下の10項⽬が⽰されています。
  • ⾼⾎圧は、将来の脳卒中・⼼臓病・腎臓病・認知症の発症リスクを⾼める病気です。
  • ⽇本では、1年間に17万⼈が、⾼⾎圧が原因となる病気で死亡しています。
  • ⽇本の⾎圧コントロール状況は、主要経済国の中で最下位レベルです。
  • 上の⾎圧(収縮期⾎圧)を10mmHg下げると、脳卒中・⼼臓病が約2割減少します。
  • ⾼⾎圧の⼈では、年齢にかかわらず、上の⾎圧を130mmHg未満、下の⾎圧を80mmHg未満まで下げると、それ以上の⾎圧に⽐べて、脳卒中や⼼臓病が少なくなります。
  • ⽣活習慣の改善(減塩、運動、肥満の是正、節酒など)で⾎圧は下がります。
  • ⽇本⼈の⾷塩摂取量は1⽇10gと世界の中でも多く、⾼⾎圧の⼈は1⽇6g未満にすることが勧められています。
  • ⽬標の⾎圧レベルに達するために、多くの⾼⾎圧患者では⾎圧を下げる薬が2種類以上必要です。
  • ⾎圧を下げる薬は安価・安全で効果があり、副作⽤よりも⾎圧を下げる利益の⽅が⼤きいことがほとんどです。
  • ⽇本は家庭⾎圧計が普及しており、家庭での⾎圧測定は⾼⾎圧の診断と治療に役⽴ちます。

血圧を適切に保つために

  • 食塩(ナトリウム)摂取を減らしましょう
食塩は 1日6g未満が目標です。食塩を多く含む漬物や加工食品を控えて低塩調味料・食品に替えましょう。お酢、香辛料やハーブなどを使いましょう。食品を選ぶ際、栄養成分表示で食塩相当量を確認しましょう。麺類のスープを全部は飲まないようにしましょう。
<食品に含まれる塩分量の目安>
  • みそ汁(1杯)約1.5g
  • インスタントスープ(1袋)約1.2g
  • きゅうりのぬかみそ漬け(5切れ)約1.6g
  • 梅干し(1つ)約2.2g
  • ちくわ・中(1本)約0.7g
  • あじの開き(1尾)約1.4g
  • 塩鮭・中辛(1切れ)約1.1g
  • かた焼きせんべい・大(2枚)約1.0g
  • うどん(1杯、汁を含む)約5〜6g
  • ラーメン(1杯、汁を含む)約6〜7g
  • 塩(小さじ1杯)6.0g
  • 濃い口しょうゆ(小さじ1杯)0.9g
  • カリウムを積極的に摂りましょう
カリウムの豊富な野菜(350g/日)、果物(200g/日 )、低脂肪の牛乳・乳製品を摂りましょう。減塩と共に積極的にカリウムを摂って「ナトカリ比」を下げましょう。
  • 太りすぎに注意しましょう
BMI 25kg/m2以上の方は25kg/m2未満を目指しましょう。
  • 運動する習慣を身につけましょう
ウォーキングなどの有酸素運動を毎日30分以上、低強度の筋力トレーニングのようなレジスタンス運動(スクワットやプランクなど)は毎日20分、両方合わせて行う場合は週2〜3回程度。合計で週200分程度が理想です。
  • アルコールの飲み過ぎに気をつけましょう
エタノールで男性20~30mL/日(おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)以下、女性は10~20mL/日以下が目標です。
  • 禁煙をしましょう
加熱式たばこなどの新型たばこも含めて喫煙を止めましょう。禁煙する際は食事内容や量に気を付け、運動をするなどして体重増加に注意しましょう。
  • 寒すぎに注意
冬季室温は18℃以上をキープしましょう。寒い部屋では血圧が高くなる傾向があり、特に高齢者や高血圧の人は注意が必要です。
  • 良質な睡眠をとりましょう
6~8時間の質の良い睡眠をとることは高血圧の予防や改善に役立ちます。
  • 便秘を避けましょう
いきむことで血圧は上がります。便秘は心臓病や脳卒中とも関連します。毎日の排便を心掛けましょう。
  • リラックスを心がけましょう
ストレスは血圧を上昇させる要因です。できるだけストレスを避け、リラックスできる時間を持ちましょう。リラックスする方法は、静かな環境や運動、社交的活動や家族団らんなど様々ありますので、個々に合ったものを見つけましょう。
(日本高血圧学会「早朝高血圧徹底制圧プロジェクト」<2025>より引用改変)

腎デナベーション治療

最近、腎デナベーション治療(Renal Denervation, RDN)という新しい治療法が開発されてきています。1泊2日程度の短期間の入院で、1時間程度のカテーテル治療にて腎交感神経を遮断することで、継続した血圧降下を図る治療です。国内で様々な治験が行われ、近々の一般診療導入に向けて準備が行われています。腎交感神経は、血圧調節に重要な役割を果たしており、その過剰な活動が高血圧の原因となることがあります。最先端医療であるこの治療法は、腎動脈周囲の交感神経を焼灼することで、交感神経の活動を抑制し、持続的な血圧を低下させることを目的としています。
院長の岡村医師は、前職の福岡大学筑紫病院や如水会今村病院にて、3つの腎デナベーション治験(REQUIRE試験・TCD16164試験・RADIANCE-HTN DUO試験)に携わり多くの症例を経験しました。腎デナベーション治療は2023年11月には米国食品医薬品局(FDA)より承認を得ることができ、さらに2025年7月には本邦の厚生労働省薬事審議会においても、治療抵抗性高血圧症患者に対しての腎デナベーション治療が了承されました。同年9月までに2種類のデバイスの製造販売承認もおりて、今後当治療が、循環器学会、高血圧学会、心血管インターベンション学会の3学会を軸に一般臨床でのPMS(製造販売後調査)を行うことで、活性化していくものと思われます。